訪問介護の移動時間は賃金の対象?労働時間になる場合と賃金の組み方
訪問介護で利用者宅の間を移動する時間は、事業所が命じ、自由に使えない場合は労働時間で、賃金を払う対象です。厚生労働省の通達をもとに、移動・記録・待機・研修の扱い、単価の分け方、最低賃金との比べ方、求人票への書き方をまとめます。
この記事の内容
訪問介護で事業所から利用者宅へ、利用者宅から次の利用者宅へ移動する時間は、事業所が業務のために移動を命じ、その時間を自由に使えない場合は労働時間 にあたり、賃金を払う対象です。厚生労働省の通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」は、通常の移動に要する程度の時間であれば労働時間に当たると考えられる、としています。
移動の時間の単価を介護の時間と分けることはできますが、最低賃金を下回らない範囲 で決める必要があります。この記事では、通達にそって、労働時間になる時間の種類、賃金の組み方、最低賃金との比べ方、求人票への書き方をまとめます。
労働時間になる 4 つの時間
通達は、介護の業務に直接従事する時間のほかに、次の時間が労働時間に当たる場合を示しています。
| 時間 | 労働時間になる場合 |
|---|---|
| 移動時間 | 事業場・集合場所・利用者宅の間の移動で、使用者が業務に必要な移動を命じ、自由に使うことが保障されていない場合 |
| 業務報告書などの作成時間 | 介護保険制度や業務の規程で作成が義務づけられ、使用者の指揮監督のもとで事業場や利用者宅などで作成している場合 |
| 待機時間 | 急な依頼などに備えて事業場などで待機を命じ、自由に使うことが保障されていない場合 |
| 研修時間 | 使用者の明示の指示で行う場合。指示がなくても、受けないと就業規則で不利益がある、業務に支障が出るなど、実質的に出席を強いている場合 |
移動時間の考え方
移動時間は、使用者の指揮監督の実態で判断します。通達は例として、事業場から利用者宅への移動時間や、ある利用者宅から次の利用者宅への移動時間で、通常の移動に要する程度のもの は労働時間に当たると考えられる、としています。
一方、訪問と訪問の間が長く空き、その間は自宅に戻るなど自由に過ごせる場合は、その空き時間のすべてが労働時間になるわけではありません。どこまでが移動で、どこからが自由な時間かは、訪問の予定の組み方と実態で決まります。
直行直帰の場合
自宅から最初の利用者宅へ直接向かい、最後の利用者宅から自宅へ直接帰る働き方では、通勤にあたる部分の扱いが問題になります。通達が労働時間の例に挙げているのは、事業場・集合場所・利用者宅の「相互間」の移動です。自宅との間の移動をどう扱うかは、事業所の指示の内容や実態によるので、就業規則で決めたうえで、判断に迷う場合は労働基準監督署に相談します。
賃金の組み方
労働時間を通算して払う
通達は、賃金はどの労働時間にも払われなければならないとし、時間に応じて賃金を計算する場合は、介護に直接従事する時間だけでなく、移動・記録・待機・研修などの労働時間を通算した時間数 で計算するよう求めています。「介護の時間 1 時間ごとに〇円」とだけ決めて、移動や記録の時間に何も払わない形は、この考え方に合いません。
単価を分けることはできる
介護に直接従事する時間と、それ以外の時間の賃金の水準は、最低賃金額を下回らない範囲で、労使の話合いで決める ものとされています。つまり、次のように単価を分けることはできます。
| 時間の種類 | 単価の例 |
|---|---|
| 身体介護・生活援助の時間 | 時給 1,600円 |
| 移動・記録・待機の時間 | 時給 1,200円(事業所がある都道府県の最低賃金以上) |
| 研修の時間 | 時給 1,200円 |
1 日に介護 3 時間、移動 1 時間、記録 30 分の場合、1,600円 × 3 時間 + 1,200円 × 1.5 時間 = 6,600円 です。介護の時間だけで計算した 4,800円 との差 1,800円 が、移動と記録の分です。
1 回いくらの払い方
「身体介護 1 回〇円」のように訪問の件数で払う形は、最低賃金法施行規則でいう出来高払制にあたります。この場合、最低賃金と比べるときは、賃金を計算する期間の出来高払の賃金の総額を、その期間に働いた総労働時間数(移動・記録などを含む)で割った額 を使います(最低賃金法施行規則第2条)。1 回の単価が高く見えても、移動の時間が長い日が続くと、時間あたりの額が最低賃金を下回ることがあります。
時給と月の手当が混ざる場合
基本給は時給で、職務手当などは月額で払っている場合は、それぞれを時間あたりの額に直して合計し、最低賃金と比べます。月額の手当は、その月の所定労働時間で割って時間あたりの額にします。
交通費は賃金に入れない
利用者宅への移動の費用として、事業所が実費弁償で払っている交通費やガソリン代は、一般に労働の対償ではないため賃金にあたらず、最低賃金と比べるときの額には入れません。「移動手当」の名目でも、実際には実費を補う性格のものは同じ扱いになります。移動時間の賃金と、移動の費用の弁償は、別のものとして分けて決めます。
休業手当:利用者のキャンセル
利用者が利用をやめた・時間を変えたことを理由に、勤務表で決まっていた労働日の全部または一部を休ませた場合、通達は、使用者が最善の努力を尽くしたとはいえないときは、平均賃金の 60% 以上の休業手当(労働基準法第26条)が必要としています。
- ほかの利用者宅での勤務を考えたか、代わりの業務を用意できないかを検討したかで判断される
- 代わりの業務を用意した場合や、就業規則にもとづいて勤務時間帯・労働日を変えて別の業務を用意した場合は、休業手当は要らない
- 1 日の一部だけを休ませた場合も、その日に実際に働いた分の賃金が平均賃金の 60% に満たなければ、差額を払う
求人票への書き方
移動時間の扱いは、登録型のヘルパーの応募を考える人がとくに気にする点です。求人票には、次のことが分かるように書きます。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 賃金 | 身体介護 時給 1,600円/生活援助 時給 1,400円/移動・記録・待機 時給 1,200円 |
| 移動の費用 | 交通費 実費支給(自転車・バイクは 1km あたり〇円) |
| 研修 | 研修の時間も時給 1,200円 を支給 |
| キャンセル | 利用者の都合で休みになった場合の扱い(就業規則による) |
「時給 1,600円〜」とだけ書き、移動や記録の時間が別の単価であることを書かないと、応募した人が考えていた収入と実際が違うことになります。時間の種類ごとの単価を並べて書くのが誤解を生まない書き方です。求人票全体の必須項目は 介護の求人票の書き方と必須項目 を、登録型・常勤型の募集の組み方は 訪問介護ヘルパーの採用 をご覧ください。
記録と帳簿
通達は、訪問介護の事業場に、労働者名簿と賃金台帳を事業場ごとに作り、労働日数・労働時間数・賃金の種類ごとの額などを記入して保存するよう求めています。移動や記録の時間を賃金の対象にするには、まず時間を把握することが前提です。訪問の記録と、移動・記録の時間を合わせて残す仕組みを作っておくと、賃金の計算と説明が両方しやすくなります。
最低賃金の改定のときは、移動・記録などの単価がいちばん低くなりがちなので、そこから見直します(最低賃金の改定に合わせた求人票の見直し)。
よくある質問
Q. 移動時間の賃金を、介護の時間より低い単価にしてもよいですか。 できます。通達は、介護に直接従事する時間とそれ以外の時間の賃金の水準を、最低賃金額を下回らない範囲で労使で決めるとしています。事業所がある都道府県の最低賃金を下回らないことが条件です。
Q. 登録型のヘルパーは雇用ではなく委託なので、移動時間は関係ないのではありませんか。 通達は、登録型のヘルパーも含め、訪問介護の業務に従事する人は一般に労働者に当たるとしています。契約の名前が委託や委任でも、実態で判断されます。労働者であれば、移動時間を含む労働時間に賃金を払う必要があります。
Q. 訪問と訪問の間が 2 時間空いた場合、その 2 時間も労働時間ですか。 その間に自由に過ごせるなら、通常の移動に要する時間を除いた部分は労働時間に当たらないと考えられます。事業所で待機を命じている場合は労働時間になります。個別の判断は、事業所を受け持つ労働基準監督署に相談できます。
出典・参考にした一次資料
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